ロータリーの友 2017年7月号
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平成29年 7月号ロータリーの友2073渡り行く鳥もめでたく見えにけり友の退院知りたる朝そ成田 繁穂秋田・能代 「ペーパーレス」の時代です。小説類も電子書籍に移行しつつあります。場所を取って仕方ないと、百科事典や辞書類もどんどんチリ紙交換に。その中で、初めて買った『広辞苑』を抱きしめている作者の姿が彷彿(ほうふつ)とされます。捨てられぬ初めて買った広辞苑大平  昇香川・高松人間の野生の記憶尾てい骨山岡 陸宏高知西 春愁とはとりとめもない春の愁い。これといった心配事があるというわけではない。そのことを句にしただけの句であるが、はからずも春愁の実態を突いてしまった。憂ふことなけれどなぜか春愁吉田 邦男大阪北 子猫が生まれたという話を聞いて、近所の子どもがやってくる。「分けてくれ」でもなく「見せてくれ」でもない。かわいくて、触りたいのだ。それが「抱かせてくれ」。子猫生る抱かせてくれと幼来る佐野 浩平千葉・野田 桜の花のころ、しとしとと雨が降りつづく。この句、「花の雨」の感じをしっかりととらえている。たしかに秘め事でも「私語くごとく」。春の雨では句にならない。花の雨私語くごとく樋伝ひ荻野  修愛知・新城 親兄弟の木々を離れて、遠く海原をさまよってきたのだろう。その流離の思いを慰めるかのように、波が流木を洗っている。泣き疲れた迷子をあやすように。流木をやさしくあやす春の波升田 義次富山南 春から初夏にかけての植物たちの生命力には圧倒される。朝はまだつぼんでいた木蓮が昼にはみごと全開。圧倒されているだけでなく、そこから一句を得た。木蓮の朝に蕾昼に花溝畑 正信東大阪東臆病で風に期待をしてしまう牧野 芳光   鳥取・倉吉中央てじま晩秋長谷川 櫂谷根千によく似合うのは猫の声小泉 博明東京池袋 東京下町の谷中、根津、千駄木地区は、総じて「谷根千」と呼ばれています。幸いなことに東京空襲の影響はあまり受けずに昔ながらの下町情緒が残る町並みが続きます。わざわざ地方からも見聞に訪れてくる方もおられるとか。私も近くの川柳句会がある際は立ち寄っていますが、この句の通り猫ちゃんがたくさんおります。今ちょっとした観光スポットになっている「谷根千」のマスコット的存在です。馬場あき子手土産の蟹がとりもつ仲直り辻  舒宏北海道・斜里 小さな口喧嘩(げんか)、いざこざくらいは持参の蟹(かに)が仲裁しますか。しかもオホーツク海の銘品。確かに蟹を食べる時、皆無言でむしゃむしゃの状態ですね。「みんな明日も元気で行こう」でしょうか。 「思ふまま」とは距離も時間も、そして好きな型も自在に水泳を楽しんだ爽快さを思わせる。その結果としての「火照る五体」も力に満ちた表現だし、自らの体姿の「かがやき」もすばらしい。三句切れの上下ともに引き締まった声調で、その時の作者の感動がこもっているのが感じられる。作者は八五歳とある。シニアの大会でも記録をもたれているかもしれない。年齢にも自負と矜(ほこ)りがある。羨(うらや)ましくも感銘深い一首。井上 久子東京荒川思ふまま泳ぎて火照る五体あり己が姿のかがやきを見つ 享保は八代将軍・徳川吉宗の時代である。大岡忠相(ただすけ)が町奉行として活躍した。享保雛(びな)という独特の大型雛が多く残されている。そんな時代に創業された酒蔵の酒の味わいが魅力的だ。朝から開かれている試飲会に参加し、何種類かを試飲して、とてもいい気分に酔っている作者。享保という時代まで飲んだような楽しさが酔いに加わったことだろう。初句の「てふ」は「という」の古語。井戸 豊彦岐阜長良川享保てふ創業誇る酒蔵の朝の試飲に少し酔ひたり

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