ロータリーの友 2017年7月号
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THE ROTARY-NO-TOMO2017 VOL.65 NO.7  一九五一年 鳥取県生まれ。七八年 自治医科大学卒業。鳥取県立中央病院でのローテート研修を経て、地域医療に従事。
九五年 自治医科大学法医学・人類遺伝学教授。九八年 同大学地域医療学教授。二〇〇一年 同大学総合診療部長。〇八年 同大学地域医療学センター長。一七年 自治医科大学を退職し、同大学客員教授、名誉教授。現在、筑西市医療監。梶井 英治■  自治医科大学名誉教授867が、日ごろの食事において、私たちは塩分を結構多く摂取しているのだ、ということです。外食などをすると、かなりの塩分を取ってしまうことになります。漬物、干物、汁、ハムやソーセージなどの加工品、パンや麺、実にさまざまなものに塩分が入っています。「一日八㌘」を目指そうとしたら、この食品にはどれくらい入っているのだろうか、とまずは知ることです。最初はちょっと努力が必要です。慣れてくると、自然に「あ、これには大体これくらい入っているな」ということが分かるようになってきます。 また、明らかに「高血圧」と区分される人に対しては普段、病院や地域の健康講座などで「減塩をしましょう」というアプローチがなされます。ところが、一般の人にはされません。しかし一般の人にリスクは全くないのか、というと実はあるのです。減塩しましょう、というような良いことは、やはり誰もが取り組んでいきましょう、ということです。そうすれば、一人でも病気を発症する人を減らすことができます。 このように、個々への患者へのアプローチだけではなく、地域全体へのアプローチ、取り組みが大事です。すでに病気のリスクの高い人に対してのアプローチを「ハイリスクアプローチ」と言います。具体的には個別に健康教育を施したりすることです。そうすれば、高リスクの人たちの発症の頻度が低下していきます。 一方、地域全体の一般の人たちに対しては「ポピュレーションアプローチ」と言います。社会的な啓発や組織整備を行うことです。両方のアプローチを行えば、「日常生活、みんなで渡れば怖くない」です。その地域に住んでいれば、無意識に減塩できる地域づくりが進められます。個人の努力に加えて、皆でできることは進める、という社会づくりが必要です。 イギリスでは、社会全体で取り組む八五品目の塩分量を国が指定しました。さらに、かかりつけ医に健康相談を行うこととしました。かかりつけ医は住民二〇〇〇人に対し一人です。そして食パン。日本と同じくらいあった食パンの塩分含有量一・三㌘は、一㌘くらいに減らしました。国を挙げて、二つのアプローチに取り組んだのです。 すると、脳卒中・心臓病の発症は、この一〇年で四〇㌫減少したそうです。認知症も二〇㌫減少。医療費増も抑制できました。今、日本国の予算は約九六兆円ですが、そのうちの一〇兆円は医療費が占めています。わが国の総医療費は、二〇一四年にはついに、総額だと四〇兆円を超えました。毎年一兆円ずつ増えています。やはり、より有効な医療費の使い方を皆で考えていかなければならない時代でしょう。 減塩に取り組むだけでも、医療費削減には効果があると思います。アメリカでは現在、塩分の一日の摂取量は大体七~八㌘だそうです。一日三㌘減らすことによって、年間五万~八万人の心臓血管病の人が減ると予測されています。医療費にして一兆円の減額が可能になると言われています。 実は、地域医療と減塩は、大変関係が深いのです。一九六〇年ごろの長野県は、脳卒中での死亡率は日本一でした。これはまずい、と全県挙げて地域医療に取り組み、現在では長寿県です。食生活改善推進員が各家庭を回り、味噌汁、漬物への塩分指導を半世紀にわたり行ってきました。 新潟県でも、昭和四〇年代から脳血管疾患対策に取り組んできました。一九八一年からは「クローバー運動」と称し、行政、栄養士会、食生活改善推進委員協議会が連携、高塩分食(味噌汁、漬物、魚介塩蔵品)対策を行ってきました。二〇〇八年からはさらに医師会、調理師会、コンビニ・スーパー、減塩食開発事業者、農業関係者、つまり地域の多くのプレーヤーが参加して、県や市町村、県民を挙げての活動「にいがた減塩ルネサンス運動」を展開。「野菜で健康生活」がテーマです。企業や飲食店も参加していますから、減塩レシピSPEECH減塩と健康寿命

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